アウトライン

前文

新成長戦略(健康長寿社会の実現)、スポーツ立国戦略及びスポーツ基本法の理念に従って、豊かな知識基盤社会を今後実現して行くためには、その担い手である大学生の体育スポーツ指導の充実が重要です。とりわけ、体育スポーツの専門家を養成する体育系大学における教育の充実・改革が必要不可欠となります。

しかし、現在の博士課程では、博士論文作成に柱を置いた従来の研究指向型の人材養成システムが一般的で、十分な成果を上げているとは言えません。今、社会が大学に求めているのは、ある専門分野における学術研究の進歩のみに貢献する人材養成よりもむしろ、学際的方法で職業上の諸問題の解決に貢献する人材養成です。

そこで、教育能力育成を軸とした教育指向型の博士課程の創設、さらに大学体育や大学スポーツ充実のための実践的研究を行える能力を育成する教育プログラムとして、本専攻が開設されています。体育系の実技教育・指導に深く関わっている大学教員の博士号取得向上および実践研究推進に繋がるとともに、高等教育における体育スポーツ教育の質保証へ直接的に貢献するものです。
したがって、本専攻は大学体育や大学スポーツの充実・発展へ寄与する実践研究と、それに基づく教育実践の循環を促進できる高度専門職業人としての大学教員の養成を目的としています。

また、本専攻は筑波大学と鹿屋体育大学との共同設置で運営しています。各大学の専門性・独自性を最大限に活かしながら、現職教員の方にも可能な限り無理なく受講ができるように、遠隔講義システムや週末・長期休業を利用するなど、カリキュラムが工夫されています。

 

 

 

 

専攻長挨拶

                    ー予測困難な時代を進むー     
                                                                                                               筑波大学 専攻長 坂本昭裕

 現在、私たちは予測の大変難しい不確実な時代の中にいると言えます。今夏に開催予定だった東京2020オリンピックは、新型コロナウィルス感染症の蔓延によって1年延期となりました。世界中の人々が東京に集まるどころか、国や地域が分断される状況になっています。誰がこのような事態を予測することができたでしょうか。この新型コロナウィルス感染症に限らず、自然災害、人為的災害などの不測の事態は、今後も私たちを悩ませるであろうと思われます。
 また、Al、loT、ロボティクスに代表される先端技術の高度化は、人の予測をはるかに超えるスピードで進展しています。野村総合研究所とオックスフォード大学准教授のマイケル・オズボーン氏の研究では、今後10年から20年程度で、約47%の仕事が自動化される可能性が高いと報告されています。今ある仕事の多くが、近い将来には消失してしまうかもしれません。社会はとても速いスピードで変化し、何かを見通すことがとても難しい時代になっています。
 このような時代の流れと私たちの日々の教育実践は無縁ではなく、とくに教育の現場は、大きく影響を受けているように思われます。例えば、新型コロナウィルスの問題は、授業の方法さえも変えてしまう事態を引き起こしています。このような状況の中では、私たち自身がこれまでに用いてきた従来型の課題解決の方法や価値観は、見直しを余儀なくされます。すなわち、自分が拠って立っている既存の伝統的なディシプリンだけでは課題解決は難しいため、多様な学問分野から学び、新たな知識、技術を創出することが不可欠になってくると思われます。
 くしくも本専攻は、多様な学問分野を融合した課題解決型の実践的な研究を志向しており、大学体育スポーツ現場に存在する諸問題の解決に向けて探求することに特色があるように思います。社会の変化を敏感に捉え、本専攻自らが、高等教育や体育スポーツの課題を見出し、率先してその解決に参画することがミッションではないかと思います。そしてそれは、将来を担ってゆく大学生をはじめとした若者たちを、体育スポーツを通じて育んでゆくことに他ならないと考えています。
 ここまで、いささか堅苦しい所信となりましたので、最後は、話題を変えて締めくくりにしたいと思います。かつて名僧で知られた一休禅師が、旅に出られるおりに、弟子たちに、「もし寺に大事があって困ったときには、この封書を開けよ」と一通の封書を残して旅立たれたとのことです。あるとき、寺で立ち行かない一大事が起こり。弟子たちは、一休禅師の封書を思い出し、それを開封することにしました。弟子たちは、大変期待をして開けてみたところ、紙が一枚入っており、そこには『大丈夫、心配するな、なんとかなる』と記してあったとのことです。弟子たちは、この一休禅師が書き残した紙を目にして、笑いの中で勇気と明るさを取り戻したとのことです。
 このような時代だからこそですが、「なんとかなる」と「明るさを忘れない」の精神で専攻の運営に取り組んでいきたいと思っています。教職員ならびに学生の皆さまどうぞよろしくお願いします。

 

                                

 

 

 「哲学を揺さぶる」
                                    鹿屋体育大学 専攻長 髙橋仁大

 本専攻は筑波大学と鹿屋体育大学の共同の博士後期課程として2015年に学位プログラムとしてスタートし,2016年からは共同専攻として運営されています。「大学体育スポーツ現場の教育指導と研究の循環を効果的に行える,学術的職業人としての体育教員を養成すること」を目的に,コースワークを重視したカリキュラムの展開,研究力だけでなく教育力も審査する博士論文研究能力審査(QE:Qualifying Examination)の実施,さらに学位論文の審査を経て,「博士(体育スポーツ学)」の授与を目指すものです。
 2019年度を終えた段階で,学位プログラムと共同専攻を合わせて7名の修了生を輩出しており,その全員が大学体育スポーツ分野に携わっています。これは本専攻の趣旨が十二分に体現されていることを示した結果であると自負しています。今後は本専攻の修了生が自身の仕事として大学体育スポーツの高度化に貢献していくとともに,大学体育スポーツに携わる新たな人材を発掘し,その人材を育成していくことにも貢献してもらえるよう願っています。
 私自身も,専門とするテニスのコーチングの現場での実践を通して,特に大学スポーツの高度化に貢献できるよう,日々取り組んでいます。テニスのコーチングでは,目に見える技術の出来栄えや実際に行われたプレーの結果などから選手を評価します。評価にあたっては,ラリーの打ち合いの中で選手がどのような状況判断に基づいてそのプレーを実行したのか,選手の意図を読み取ることが必要です。目に見える技術の欠点やプレーでの選択そのものを指摘して選手の変容を目指すことは,ある意味で簡単です。しかし簡単に変わることは,簡単に元に戻るともいわれています。重要なのはどのように状況を判断しているか,またその状況判断からどのような選択をしたか,という思考のプロセスです。
 この状況判断や選択には,その選手のもつ哲学が影響しているのではないか,と最近考えるようになりました。テニスのプレーの中で,状況判断や選択をするために与えられる時間は一瞬であるため,その状況で直感的に浮かんだ選択肢を実行することがほとんどです。この直感的に浮かんでくる選択肢の内容は,選手によって異なります。つまり,その選手のバックグラウンドとして選手の中に存在するもの=「哲学」が,その選手の状況判断に影響を与えているのではないか,ということです。
 すると,選手の変容を目指す指導者に必要なことの一つは,選手の哲学を揺さぶることであるといえます。選手自身の哲学は,その選手自身の人生の中で時間をかけて作られてきたものです。簡単に変わるものではありませんが,一旦変容が起これば,その効果は持続されるでしょう。ここにこそ大学スポーツの大きな意義があるのではないか,そしてこのようなコーチングが,大学スポーツの高度化につながるのではないか,と思っています。
 本専攻に関わる学生,教員,職員すべての方々の日々の取り組みが,大学体育スポーツの高度化につながっているという自負を持ち,今後も新たな仲間を迎え入れながら,本専攻の発展を期していきたいと思います。

 

 

教育目標

定められた要件(授業科目の履修単位及び研究指導等)を充足したうえで博士論文を提出し、学位審査に合格し以下の能力を有することが最終試験等において認定されたものに博士(体育スポーツ学)の学位を授与します。

  1. 大学体育や大学スポーツを先導する確かな専門知識と実技教育能力
  2. 大学体育のカリキュラム等の開発および授業能力、大学スポーツの指導能力
  3. 大学体育や大学スポーツにおける現場の実践知を探求し、その研究結果を教育へと循環させることができる実践的研究能力
  4. 仮説創設型および仮説検証型研究能力
  5. 高等教育における、体育スポーツの教育の質保証を先導する高度な指導者に必要な教養
  6. 高い倫理観および国際感覚

入学者選抜の基本方針

大学体育・大学スポーツの教育指導現場における問題解決のための実践的教育・研究能力獲得に高い意欲を持つとともに、修士課程(専攻領域を問わず)を経るなど一定の水準の学術的研究能力を身につけた者を選抜します。

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