アウトライン

前文

新成長戦略(健康長寿社会の実現)、スポーツ立国戦略及びスポーツ基本法の理念に従って、豊かな知識基盤社会を今後実現して行くためには、その担い手である大学生の体育スポーツ指導の充実が重要です。とりわけ、体育スポーツの専門家を養成する体育系大学における教育の充実・改革が必要不可欠となります。

しかし、現在の博士課程では、博士論文作成に柱を置いた従来の研究指向型の人材養成システムが一般的で、十分な成果を上げているとは言えません。今、社会が大学に求めているのは、ある専門分野における学術研究の進歩のみに貢献する人材養成よりもむしろ、学際的方法で職業上の諸問題の解決に貢献する人材養成です。

そこで、教育能力育成を軸とした教育指向型の博士課程の創設、さらに大学体育や大学スポーツ充実のための実践的研究を行える能力を育成する教育プログラムとして、本専攻が開設されています。体育系の実技教育・指導に深く関わっている大学教員の博士号取得向上および実践研究推進に繋がるとともに、高等教育における体育スポーツ教育の質保証へ直接的に貢献するものです。
したがって、本専攻は大学体育や大学スポーツの充実・発展へ寄与する実践研究と、それに基づく教育実践の循環を促進できる高度専門職業人としての大学教員の養成を目的としています。

また、本専攻は筑波大学と鹿屋体育大学との共同設置で運営しています。各大学の専門性・独自性を最大限に活かしながら、現職教員の方にも可能な限り無理なく受講ができるように、遠隔講義システムや週末・長期休業を利用するなど、カリキュラムが工夫されています。

 

 

 

 

専攻長挨拶

                        
                                                                                                               筑波大学 専攻長 坂本昭裕

__私たちは、予測が難しい不確実な時代に生きています。グローバル化が進み、技術や情報の発展が加速する一方で、突発的な出来事や危機が頻繁に発生しています。国や地域が分断されたり、予測不可能な変化が起きる中、未来を正確に予見することはますます困難です。自然災害や人為的災害、政治的不安定さなど、さまざまな不測の事態が今後も私たちの生活に影響を与えるでしょう。このような不確実性に直面しながら、柔軟で適応力のある社会を構築するため、新しいアプローチや視点を模索していく必要があります。
  この不確実な時代の流れは、私たちの日々の教育実践と密接に結びついており、特に教育現場への影響は顕著です。予測困難な変化や突発的な出来事によって、授業の方法や教育環境は大きく変わり、従来の手法や価値観を見直す必要が浮き彫りになっています。従来のアプローチだけでは、複雑化する問題に対応することがますます難しくなってきています。そのため、既存の伝統的なディシプリンに依存するのではなく、幅広い学問分野から知識や技術を学び、それらを統合し新たな解決策を生み出す柔軟で多面的なアプローチが、今後の教育現場で重要になるでしょう。
 本専攻は、多様な学問分野を融合した課題解決型の実践的な研究を推進しており、大学体育やスポーツの現場で生じる課題の解決を探求することを特色としています。社会の変化を敏感に捉え、本専攻自らが高等教育や社会の課題を見出し、その解決に率先して取り組むことこそが、我々のミッションではないでしょうか。そして何より、将来を担う大学生や若者たちを、体育・スポーツを通じて育成することが、今後も重要な責務であると考えています。
 少し堅苦しい話になってしまいましたが、かつての名僧であった一休禅師には、こんな逸話があります。旅に出る際、弟子たちに「もし寺で大事が起きたら、この封書を開けなさい」と一通の封書を託し、旅立たれたそうです。あるとき寺で大きな問題が発生し、弟子たちはその封書を開けることにしました。期待を込めて開封すると、紙が一枚入っており、そこには『大丈夫、心配するな、なんとかなる』と記されていました。それを見た弟子たちは、思わず笑い、勇気と明るさを取り戻したそうです。
 このような時代だからこそ、「なんとかなる」と「明るさを忘れない」精神で、私たちも専攻の運営に取り組んでまいりたいと思います。教職員の皆さま、そして学生の皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

「哲学を揺さぶる」 

鹿屋体育大学 専攻長 髙橋仁大

 本専攻は筑波大学と鹿屋体育大学の共同の博士後期課程として2015年に学位プログラムとしてスタートし,2016年からは共同専攻として運営されています。「大学体育スポーツ現場の教育指導と研究の循環を効果的に行える,学術的職業人としての体育教員を養成すること」を目的に,コースワークを重視したカリキュラムの展開,研究力だけでなく教育力も審査する博士論文研究能力審査(QE:Qualifying Examination)の実施,さらに学位論文の審査を経て,「博士(体育スポーツ学)」の授与を目指すものです。
 2019年度を終えた段階で,学位プログラムと共同専攻を合わせて7名の修了生を輩出しており,その全員が大学体育スポーツ分野に携わっています。これは本専攻の趣旨が十二分に体現されていることを示した結果であると自負しています。今後は本専攻の修了生が自身の仕事として大学体育スポーツの高度化に貢献していくとともに,大学体育スポーツに携わる新たな人材を発掘し,その人材を育成していくことにも貢献してもらえるよう願っています。
 私自身も,専門とするテニスのコーチングの現場での実践を通して,特に大学スポーツの高度化に貢献できるよう,日々取り組んでいます。テニスのコーチングでは,目に見える技術の出来栄えや実際に行われたプレーの結果などから選手を評価します。評価にあたっては,ラリーの打ち合いの中で選手がどのような状況判断に基づいてそのプレーを実行したのか,選手の意図を読み取ることが必要です。目に見える技術の欠点やプレーでの選択そのものを指摘して選手の変容を目指すことは,ある意味で簡単です。しかし簡単に変わることは,簡単に元に戻るともいわれています。重要なのはどのように状況を判断しているか,またその状況判断からどのような選択をしたか,という思考のプロセスです。
 この状況判断や選択には,その選手のもつ哲学が影響しているのではないか,と最近考えるようになりました。テニスのプレーの中で,状況判断や選択をするために与えられる時間は一瞬であるため,その状況で直感的に浮かんだ選択肢を実行することがほとんどです。この直感的に浮かんでくる選択肢の内容は,選手によって異なります。つまり,その選手のバックグラウンドとして選手の中に存在するもの=「哲学」が,その選手の状況判断に影響を与えているのではないか,ということです。
 すると,選手の変容を目指す指導者に必要なことの一つは,選手の哲学を揺さぶることであるといえます。選手自身の哲学は,その選手自身の人生の中で時間をかけて作られてきたものです。簡単に変わるものではありませんが,一旦変容が起これば,その効果は持続されるでしょう。ここにこそ大学スポーツの大きな意義があるのではないか,そしてこのようなコーチングが,大学スポーツの高度化につながるのではないか,と思っています。
 本専攻に関わる学生,教員,職員すべての方々の日々の取り組みが,大学体育スポーツの高度化につながっているという自負を持ち,今後も新たな仲間を迎え入れながら,本専攻の発展を期していきたいと思います。

 

 

教育目標

定められた要件(授業科目の履修単位及び研究指導等)を充足したうえで博士論文を提出し、学位審査に合格し以下の能力を有することが最終試験等において認定されたものに博士(体育スポーツ学)の学位を授与します。

  1. 大学体育や大学スポーツを先導する確かな専門知識と実技教育能力
  2. 大学体育のカリキュラム等の開発および授業能力、大学スポーツの指導能力
  3. 大学体育や大学スポーツにおける現場の実践知を探求し、その研究結果を教育へと循環させることができる実践的研究能力
  4. 仮説創設型および仮説検証型研究能力
  5. 高等教育における、体育スポーツの教育の質保証を先導する高度な指導者に必要な教養
  6. 高い倫理観および国際感覚

入学者選抜の基本方針

大学体育・大学スポーツの教育指導現場における問題解決のための実践的教育・研究能力獲得に高い意欲を持つとともに、修士課程(専攻領域を問わず)を経るなど一定の水準の学術的研究能力を身につけた者を選抜します。

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